薬剤師をしていると、癌の患者さんに接する事も少なくありません。
癌という病気の事、薬物療法の事、患者さんの悩み・不安・葛藤など、ある程度理解しているつもりでした。
しかし、自分が経験してみると、いろいろ認識が変わりました。
私は4~5年前から、尿が少しずつ出にくくなるのを感じていました。 まだ大丈夫と思っていましたが、年齢的に前立腺癌のリスクもあるので、意を決して総合病院の泌尿器科を受診しました。
担当医からは、年齢相応だが前立腺肥大があると言われました。 今の所、癌ではないようでした。前立腺を縮小させる薬を約8ヶ月服用した所で、どの程度縮小したか超音波で検査をしようと言う事になりました。
膀胱に尿をためないと前立腺が映らないので、水をたくさん飲んで検査を受けました。
その結果、前立腺は問題なかったのですが、担当医から、 「膀胱にポリープのような影が見える。膀胱カメラをやりましょう」と言われました。
尿を我慢してたっぷり貯めたので、膀胱が膨らんでポリープの影が鮮明に映ったのでしょう。
血尿など 膀胱炎のような症状は全くなかったので、驚きましたし、尿道からカメラを入れる事に抵抗を感じましたが、仕方なく承諾しました。
膀胱鏡で判った事は、
①5ミリのポリープが血管から生えている。
②ポリープの顔つきは悪くないので、良性のポリープ(腫瘍)の可能性もある。
という事でした。
「膀胱にポリープ…?、何で…」とか混乱している内に、 担当医からTUR-BTという内視鏡によるポリープ切除の手術をする旨、説明がありました。
その日のうちに手術の日程を決めたり、術前の検査をしたり、入院の手続きをしたりしました。そんなつもりはなく外来を受診したので、現実感がないままあっという間に時間が過ぎました。
1ヶ月後に手術を受けました。
手術自体は30分程度で終了、ポリープもきれいに切除出来ました。 この時はまだ自分のポリープは良性で癌ではないと思っていました。
そして、2週間後、ポリープの病理検査の結果が出ました。
「癌でした」担当医から淡々と言われました。
「自分が癌… 良性じゃないのか?」覚悟はしていたものの、大袈裟かもしれませんが青天の霹靂という気分でした。
ただし、不幸中の幸いだったのは、 癌の進行度が Ta、悪性度がlow grade(非浸潤性で初期かつ悪性度が低い)だったので、追加治療は必要なく経過観察になった事です。
まあ、3ヶ月に1回、経過観察の為に膀胱鏡をするというのもなかなかキツいですが… 早期発見して頂いたお陰で、膀胱全摘などの大事に至らなかったので、とても幸運だったと思います。
原因や今後のことを担当医に質問してみました。
膀胱癌の危険因子としてはっきりしているのは、喫煙と特定の化学物質だそうですが、私は喫煙しません。
「膀胱癌は、食生活や生活習慣によるものではなく、特に気を付けることはない、遺伝子的なもの、癌とはそういうもの」と言われました。
また、再発が多い(グレードによりますが5年以内に40~50%程度と言われているようです)との事…ちょっとがっかりしました。
担当医は丁寧に説明してくださいました。でも、再発予防について伺うと、特に何もやることがないと言われてしまいました。
運に身を委ねながら、ただ過ごして行くだけかと思うと、何ともやるせない気持ちになりました。
そして、逃れられないものを背負い込んでしまったと感じました。
さて、担当医の話では、通常は初診時しか超音波をやらないそうです。(初診時の超音波は何も映りませんでした)私の場合は、薬の効果を確かめる為に、初診から10ヶ月後に超音波の再検査を受けました。
その過程で、偶然、膀胱の影を発見して頂きました。もし、この時点で超音波をやらなかったら、未だに膀胱癌を発見する事は出来なかったでしょう。
おそらく何年後かに、もっと癌が進行して血尿などの自覚症状が出てからの発見になったでしょう。大掛かりな手術をしたり、抗がん剤の投与なども必要になったかもしれません。
膀胱がんは1万人に1人がかかる比較的めずらしい癌で、6 0歳以降の男性に多く見られるそうです。その為、一般的な健康診断のメニューにも入っていません。
今回は自覚症状はありませんでしたが、振り返ってみると8~9年前に血尿(オレンジ色)が出たことがありました。その時は、外科の開業医さんを受診しました。
医師から「もう一度同じようなことがあったら泌尿器科を受診してください」と言われましたが、それきり血尿は出ませんでした。
大丈夫だろうと思いつつも、膀胱や尿路に何となく不安を感じました。でも、泌尿器科を受診する事なく月日が過ぎました。
泌尿器科を受診する恥ずかしさや検査に対する怖さがありました。
過去の血尿が、今回の膀胱癌と関連があったかどうかは判りませんが、身体が発した病気のサインだったようにも感じます。
「通常とは違う何か」を身体に感じたら、ためらわずに専門医を受診して検査を受けるべきだと思います。
早期に発見できれば、いろいろな治療の選択肢が増えますし、その結果身体の負担が少なくてすむケースもあると思います。
手術から1年が過ぎました。
この間、「再発を予防する漢方」を自分で試してみようと考え、服用しました。
とは言っても、特効薬があるわけではなく、自分の弱点である脾を補い消化機能を高めたり、生命活動の根本である腎を強化したりしながら、免疫力を高めてやろうと考えました。
また、ラジウム温泉の代表格である鳥取の三朝温泉に行きました。ラドンによるホルミシス効果(新陳代謝の向上、免疫力の向上、抗酸化作用)を期待して温泉に入りました。
再発予防の為に、いいと思う事は何でもやってやろうと思いました。
妻や家族も協力してくれたので、助かりました。
退院してからしばらく出血があったり、尿が出なくなって救急外来を受診なんて事もありましたが、そんな時、側で支えてくれました。
今の所、お陰様で再発はしていません。
癌になって、改めて命は有限だと感じます。
限りある命だからこそ、健康寿命を延ばすことで、自分のやりたいことをやったり、できるだけ長く家族との時間を持てたら良いなと思います。
2000年以上前の中国の書物「黄帝内経素問」(こうていだいけいそもん)に、「未病を治す」と言う考え方が記されています。
それは、「発病には至らないものの、軽い症状がある状態のうちに、異常を見つけて病気を予防する」という漢方の基本的な考え方です。
私も実践して、健康寿命を延ばしたいと思います。
*健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことをいいます。(厚生労働省の健康情報サイトより)